最後に残った勇者たち

08.09.2012, 11:14

 プロジェクト参加者のうち残っていた3人がモスクワ―ビシケク直行便で到着した。アンドレイ・クロシャーノフ、イリーナ・アニーシモワ、そして「イタリア人」だ。3人はすでに機内で初対面のあいさつを済ませていた。

 

 アンドレイは奥さんのオリガさんと一緒に到着した。「ドクター・ライフ」が始まることについてアンドレイに教えたのはオリガさんだった。妻のおかげでプロジェクトに参加することになったアンドレイは、新しい人生への切符を手にしている。

 

 上背があって粗暴な感じの入れ墨男だが、実は、ざっくばらんで笑顔を絶やさない好人物だと分かった。ところが、軽く足を引きずっているのがすぐ見てとれるし、そのむくんだ両手は腫物だらけだ。

「ちょうど2週間前、いつもの量をやったら、両足の静脈が腫れあがって、こんなになったんだ。右足はほとんど動かない。一回の量を半グラまでに落としたんだけどね」と、アンドレイはあっけらかんとしたものだ。

しかし、これからどうするつもりなのか、態度表明ははっきりしている。

「子供が欲しいんだ。普通の仕事をして、普通の生活がしたい。見送ってくれた人たちにモスクワで約束したんだ。女房と二人、お腹の中の赤ん坊と一緒に戻ってくるからってさ。だって、うちの親がオレを、つまり子供を授かりたいって思ったのは、ここの隣のカザフにたまたま来ていた時なんだよ。だったら、オレたち夫婦だって、そのならいに従っていいはずだろ。ただ、カザフじゃなくてキルギスだってことさ」

さらに開けっぴろげでおしゃべり好きなのは、「イタリア人」だ。背が高くて金髪で青い目をしている。彼が本名を明かさないのは、何か警戒しているからとか「注目を浴びる」のが嫌だからではない。理由は簡単だ。

「おふくろが頼むんです。友だちに知れたら嫌だって言うんですよ」とイタリア人。

他の麻薬依存症の者と違って、彼は友人に囲まれている。友人はみな、彼のプロジェクト参加を承知している。そして、彼がモスクワに戻ってくるのを、首を長くして待ってくれているのだ。今度こそきっぱり足を洗おう、という気持ちになったのは、3年半の間なんとか過ごせたのに、またもやヤクをやって、それまでの苦労をふいにしてしまった時だ。

 

いま、彼にはよく分かっている。完全な治療のためには、治りたいという自分の気持ちだけでは不十分で、本物の専門家の助けが必須であるということが。

「医者に言われたことは全部やってみるつもりです。ここに来たのは、保養なんかじゃなくて、治療のためなんですからね」とイタリア人は言う。

 イリーナ・アニーシモワは、参加者の中でただ一人、付き添いなしでやってきた。両親はいないし、他の親類たちはみなそれぞれ忙しくてついて来られなかった。娘のヤーナは8歳になるが、親類たちに預けてきた。ヤーナの写真だけは持ってきた。

「娘は私がどこに出かけたか、というより、どうして出かけたか、知ってるの。いつ帰ってくるのって聞いただけだったもの」とイリーナ。

ビシケク出発を次の日に控えた夜だというのに、イリーナはヘロインをやった。そして心の中で願っている。これが人生最後の麻薬になるはずだ、最後まで闘うと決めたのだからと。

 

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